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令和元年 6月定例県議会 発言内容(中川博司議員)

◆中川博司

 

 改革・創造みらいの中川博司です。最初に、松枯れ対策についてお伺いいたします。
 私の出身の松本市では、東の山は赤く染まり、松枯れの状況は目を覆わんばかりです。それぞれの地区ごとに対策協議会をつくって対策を講じてきていますが、松枯れの進行をとめることはできていません。
 松枯れの原因は、これまでの研究では、外来種のマツノザイセンチュウの繁殖が直接的な原因とされていますが、マツノザイセンチュウそのものを駆除するためには薬剤を直接松に入れる方法しかなく、経費的にも労力的にも松全体に対して行うことは困難な状況にあります。
 また、マツノザイセンチュウを他の松に運搬する役割を果たしているマツノマダラカミキリを駆除することが効果的として、薬剤の散布、伐倒燻蒸などを行ってきました。マツノマダラカミキリが最も活動が拡大する気温は25度以上と言われていて、これまで、松枯れは標高700メートルまでと言われていましたが、地球温暖化の影響で、標高的にも900メートル、場所によっては1,000メートルを超えて松枯れが出てきています。
 これまでの県の対策は、「守るべき松林」を定め、松枯れを拡大させない先端地域にターゲットを絞って対策を進めてきました。しかし、残念ながら松枯れをとめるまでには至っていません。特に、マツタケを採取している皆様にすれば、自然の産物であるだけに神にもすがる思いです。
 そこで、松枯れ対策に関連して、4点、林務部長にお伺いいたします。
 1点目は、松枯れによって長野県の特産品でもあるマツタケの生産が危ぶまれる状況があります。松枯れした山におけるマツタケ再生に向けた取り組みの現状と展望についてお伺いいたします。
 2点目は、一般の県民の皆様からすれば、赤く枯れた松を見て何とかしてほしいと思っていますが、実際は、先端地域への対策をしていて、見えているところは手おくれの状況です。しかし、枯れた松が倒れ、山腹崩壊が危惧されています。治山事業として対策を進めることはできないのか、お伺いいたします。
 3点目は、ネオニコチノイド系農薬の空中散布についてですが、健康への影響に不安を持つ県民に寄り添うには十分なリスクコミュニケーションができていないのではないかと感じられます。不安が払拭されるまで空中散布を行わないということもリスクコミュニケーションの一つだと思いますが、見解をお伺いいたします。
 4点目は、農薬の空中散布で松枯れの進行をおくらせる効果は認められても、松枯れをとめることができないことが明らかになってきています。抜本的な松枯れ対策の見直しが必要かと思いますが、見解をお伺いいたします。
      

◎林務部長(井出英治)

 

 松枯れした山のマツタケ再生についてのお尋ねでございます。
 本県のマツタケ生産量は全国1位であり、山村地域の重要な収入源となっております。松くい虫被害地域の拡大によりマツタケ山に被害が及ばないよう被害対策を行っているところですが、松枯れした山のマツタケを再生するためには、まずアカマツ林を再生する必要がございます。このため、新たなアカマツの植栽について造林補助事業等により支援するとともに、松くい虫被害に耐性があるアカマツの苗木を植栽することが有効であることから、県林業総合センターにおいて試験等を行い、一定程度抵抗性が期待できるアカマツの苗木生産を進めております。
 また、同センターでは、マツタケの人工栽培を目指した試験研究も進めております。今後とも、こうした試験・研究や耐性があるアカマツの植栽への支援を進め、マツタケ山の再生に取り組んでまいります。
 次に、松枯れした山での治山事業についてでございます。
 治山事業は、保安林の維持造成を通じて山地の保全や水資源の涵養及び生活環境の保全、形成等を図ることを目的としております。
 具体的には、豪雨や台風等による林地被害や森林病害虫により広範囲にわたり森林機能が低下した箇所などを対象とし、土砂崩落防止のため施設整備や森林整備を一体的に実施し、災害に強い森林づくりを進めております。
 保安林内における松枯れ森林については、被害の激害化により災害の発生するおそれがある集落の裏山や生活道路に隣接した箇所等、人への影響が高い箇所を対象に森林整備などを実施しております。また、現在保安林でない森林で地域にとって公益的機能維持のため重要な森林については、保安林に指定し、治山事業を導入するなど公的な森林管理に努めてまいります。
 次に、空中散布のリスクコミュニケーションのあり方についてでございます。
 空中散布は、県民の暮らしに重要な松林を守るため効果的な対策と認識しております。しかしながら、化学物質過敏症の方などからは、健康被害を懸念する声があります。それらを踏まえ、県で策定した長野県防除実施基準にリスクコミュニケーションを位置づけ、事業主体が地域住民との情報交換を行い、健康への影響の可能性などについて情報を把握し、検討を行った上で、地域の協議会において実施の可否を判断することとしております。
 県としては、人家等からの一定の距離の確保、風速などに注意し、健康等への被害を予防できると判断されるときは、できる限り安全性に考慮した方法により実施するように事業主体に対して助言、指導をしております。
 なお、空中散布を実施する事業主体においては、散布後の薬剤の大気及び水中の濃度を測定する安全確認調査を実施しているところでございます。
 抜本的な松枯れ対策についてでございます。
 県では、県土保全やマツタケ生産など重要なアカマツ林である「守るべき松林」において、薬剤散布や樹幹注入などの予防対策とともに、あわせて伐倒駆除を適期に行うことが重要と認識し、事業主体に助言、指導をしております。さらに、平成30年から、被害マップを作成し、被害の見える化を進めるとともに、守るべき松林とその周辺の松林などの区分を加え、被害状況に応じた薬剤散布、伐倒駆除、樹種転換等の防除を組み合わせるパッケージ対策を進めております。
 今後も、松くい虫の侵入を防ぐための対策を選択と集中により効率的、効果的に進めてまいります。
      

◆中川博司

 

 今の回答だと答えになっていないところがあるのですが、結局、薬剤散布をしても松枯れをとめることができないわけです。だから抜本的対策が必要だと質問をしているわけです。松枯れの仕組みや対策などについて、関係者だけでなく、県民の皆さんに広く周知していただくということが大事だと思います。
 私は、ネオニコチノイド系農薬によると見られるミツバチの大量死問題や健康への影響を考えると、使用を控えるべきだと考えております。私の地元の岡田地区は、果樹農家もあり、協議の結果、更新伐を選択しています。更新伐をしても、山に人が入らなければ、タラノキとイバラの山となってしまいます。
 私の小さいころは、松ごみを風呂のたきつけに使っていたことから、祖父や兄と山に入り、松ごみを集めて担いできたことを覚えています。しかし、時代の変遷の中で、生活の中に山とのかかわりが少なくなり、腐葉土がたまることでマツタケは出にくくなってきています。松枯れ対策の根本的な問題は、私たちが山とのかかわりを少しでも取り戻すことではないかと思います。ぜひ、そんな観点でのお取り組みもお願いして、次の質問に移ります。
 次に、今定例会で提案されています長野県主要農作物及び伝統野菜等の種子に関する条例案についてお伺いいたします。
 長野県の種子条例は、これまでの国の種子法の範囲を拡大し、ソバや伝統的野菜の種子についても対象にしていることは大いに評価できることだと思います。
 先般、同僚の埋橋県議と長野市信更地区信田にある種場と松代の原種センターを視察してまいりました。信田の種場は、種を取るためには、他の種との交雑がしにくい中山間の絶好の場所でございます。現在、約60ヘクタールを126人の農家の方が種取りをしています。また、異系品種の抜き取りは、夏の暑いときに3回にわたって行われる大変きつい作業です。しかし、皆さん、長野県の米を守っているという誇りを持って仕事をされていると聞きました。
 また、原種センターでは、水稲の場合、試験場で原原種がつくられ、原種センターで原種がつくられ、種場で一般栽培用の種がつくられ、そして一般栽培が行われているわけです。消費者が召し上がるまで最短でも4年かかっています。加えて、品種固有の遺伝的特性を有す健全で優良な種子を計画的かつ安定的に供給するため、県、JAグループ等の関係機関が連携して取り組んでいるところでございます。
 そこで、2点、農政部長にお伺いいたします。
 1点目は、提案されている種子条例では、種子生産者等への支援として、種子生産者の育成確保や採種技術の継承、生産体制の整備のために必要な施策を講ずるとしています。種子を調整する機械設備などが老朽化している施設もあります。種子生産者の高齢化、後継者不足もあります。今後、県として、この種子条例を生かして種子生産者等への具体的な支援をどのように考えているのか、お伺いいたします。
 2点目は、県が行った種子条例についてのパブリックコメントに寄せられた県民の皆様の御意見の中に、遺伝子組み換え作物が国内に流入することに対して不安がある。遺伝子組み換え、ゲノム編集の汚染を受けないためにも、県内にそのような種子を入れない、開発しないという担保が必要という意見に対して、遺伝子組み換え作物に関するガイドラインをつくるとしています。不安な思いを持つ県民の皆様の声を十分に取り入れたガイドラインにしていく必要があると思いますが、どのようにガイドラインをつくっていくのか、お伺いいたします。
      

◎農政部長(山本智章)

 

 初めに、種子生産者への具体的な支援についてのお尋ねですが、県内の種子生産地では、議員御指摘のとおり、機械、施設の老朽化や生産者の高齢化など産地ごとにさまざまな課題があると認識しております。
 このため、本年度から、それぞれの産地の課題を明確にするための調査を行い、県、JA、原種センターなどの関係者が連携して、種子生産者とともに中長期的な視点で今後の産地の方向性や課題の解決策を検討し、必要な取り組みを推進してまいります。
 具体的な支援といたしましては、本年度は、良質な種子生産のための技術指導や労働力の大幅な削減につながるドローンを活用した効率的な防除技術の導入を進めてまいります。
 次に、遺伝子組み換え作物に関するガイドラインについてでありますが、現在、各都道府県の取り組み状況の調査を実施するなど、遺伝子組み換え作物との交雑を防止するためのガイドラインの作成に向けて準備を進めているところであります。
 今後、内容の検討に当たりましては、種子生産者や農業者の代表、生産者団体、消費者など関係する皆様から十分に御意見を伺い、今年度中に作成できるよう検討を進めてまいります。
 以上であります。
      

◆中川博司

 

 ぜひよろしくお願いいたします。
 東南アジアでは、グローバル企業の種を毎年買わなければならないような国もあるようです。日本においては、国民の食料を確保するためにそれぞれの地域の気候や風土に合った種を生産し、それを奨励品種として安価な種として広げてきたことは大変重要なことであったと思いますし、その考え方は今後も引き継がれていかなければならないと思います。
 試験場の維持も含めて、県として公共品種や伝統野菜などを守るため引き続きの御努力をお願いいたします。長野県の種子条例が農業の多様性を守り、食料主権を守る道になることを大いに期待しています。
 最後に、知事にお伺いいたします。
 国連のSDGs(持続可能な開発目標)の中には、劣化した森林の回復、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行うターゲットがあります。
 化学物質や遺伝子組み換えなどの新しい技術に対して環境に重大な影響を及ぼす仮説上のおそれがある場合は、科学的な因果関係が十分に証明されない状況でも規制措置を可能とする予防原則という考え方があります。
 松枯れ対策の農薬の空中散布や遺伝子組み換え作物等に対する県民の皆様の不安がある中で、予防原則に立った対応をしていくことが持続可能な長野県をつくっていくことになると考えますが、知事の見解をお伺いいたします。
      

◎知事(阿部守一)

 

 いわゆる予防原則に対する見解についての御質問でございます。
 いわゆる予防原則の考え方については、国際的には1992年の国連環境開発会議で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」の中で広く提唱され、持続可能な開発目標、SDGsを中核とする持続可能な開発のための2030アジェンダにおいても確認されているところであります。
 また、我が国におきましては、国の環境基本計画において、予防的な取り組み方法という表現により、地球温暖化対策や生物多様性の保全、大気汚染防止対策などさまざまな環境政策における基本的な考え方として示されています。
 持続可能な社会をつくる上で、環境や食品安全などの分野で政策的な意思決定をするに当たっては、できる限り科学的な知見に基づき、客観的なリスク評価を行いつつ、予防的な取り組み方法の考え方を念頭に置いて取り組んでいくことが重要だと考えております。
 以上です。
      

◆中川博司

 

 私も、持続可能な社会づくりのための協働に関する長野宣言を読みました。気候変動対策を県や市町村が協力して進めていくという大切な宣言だというふうに思いました。具体化はこれからだと思いますけれども、例えば、松枯れ問題でも、気温の上昇がとまれば松枯れの拡大をとめることになるかもしれません。
 遺伝子組み換え作物は、経済発展偏重の結果であるというふうにも言えます。科学的に問題がないと証明できないことイコール安全だと言えないことはこれまでも多々あったわけでございます。ただいま知事の答弁にもありましたけれども、予防原則という考え方が持続可能な社会をつくる上で大切なことだということを重ねて訴え申し上げて、質問を終わります。ありがとうございました。

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